エピソード2

●哲学とはなんぞや…?

 ある日、安江先生と親しい画家の中川ともさんがやって来た。ともさん、開口一番、安江先生に言った。

 

「哲学とはなんぞや?」

 

 

 

安江先生、右手を挙げて答えた。

 

 

 

「人間です…」

 

 

 

 ともさん!手を打って「その通り!」と

大喜びされた。

 

 

 

(この話は加納房雄さんの話を元にしています。)

●アトリエで飲むお酒

 アトリエで絵の勉強の後、加納房雄さん(現・吉村)と森薫さんがお酒を飲んで話をして居るのを、安江先生は黙って聞きいていました。

二人で酒を飲みながら、盛り上がっていると、先生はたしなめるように言いました。

「ほどほどにしておきなさいよ!」

 

 

(この話は森薫さんの話を元にしています。)

 

●展覧会場にて

 

 先生はあちこちの展覧会や個展を楽しみに出かけておりました。知り合いの個展会場でのことです。 

 

 個展を開催している方は、安江先生が来てくれたことがうれしくて、安江先生と一緒に記念撮影をお願いしました。 

 個展の主と、先生が並んで、「さー撮りますよ!」とカメラを向けました。すると先生は、すっと、ヨコを向いてしまわれることがありました。 

 

 

 

 

(この話は加納房雄さんの話を元にしています。)

●先生は何度も現場でスケッチ

 先生は描こうと思った場所へは、何度も何度も足を運びスケッチをされていた。そして、キャンパスに向かって描き始めると、描きためた現場のスケッチは一度も見ないで一気に描き上げた。それはまるで、心にたまったものをはき出すようだった。

 

 

(この話は森薫さんの話を元にしています。)

拾ってきた捨てられた傘

 先生の描く「捨てられたものシリーズ」の中に壊れた傘がありますが、あの壊れた傘の大部分は加納房雄さん(現・吉村)が電車通勤の途中で拾って来たものでした。

 

 

(この話は森薫さんの話を元にしています。)

安江先生が旅立った

 1999年9月20日、ボクはたまたま、先生の入所している、特養「瀬戸の里」を訪ねていました。本当に偶然ですが、安江先生が旅立つ場に立ち会うことができました。先生はゼーゼーと荒い息をしていました。

 安江先生はしばらくして静かに旅立ちました。その姿は、感性豊かな青年のままでした。すぐに加納さんに連絡を入れました。加納さんは、安江先生をとても慕っていたので、訃報を聞いたときは「エッ…!」と言ったきり無言でした。大急ぎでやってききましたが、何も言わず無言で先生の枕元に立ち続けました。

 加納さんは、先生をあちこちへ連れ出すため、自分のバンを改良して、車椅子も乗せられるようにしていました。先生はいつも楽しみに加納さんとドライブを楽しんでいました。